日空研コラム


新たな性能試験方法に向けて その3(改革)

2025年6月

日空研では、国際規格化が見込まれるエアコンの「負荷固定試験」法を日空研の試験設備で実現するため、昨年所内に「次世代性能測定プロジェクト」を立ち上げて検討しています。このプロジェクトでは、早稲田大学基幹理工学部齋藤研究室の御指導を得て、所内の空気エンタルピー測定装置(RAC3)でいち早く試験導入できるよう活動中です。

日本空調冷凍研究所(JATL) 新たな試験設備のイメージ

この図は、試験設備と試験の概要を表したものです。一定の熱負荷(エアコンが処理する能力)を初期設定された仮想空間において、試験設備で測定したエアコンの能力情報を基に、エミュレーター(PC)が仮想空間の温度と湿度の状態を計算し、試験設備の温湿度調節計への情報更新を繰り返します。つまり、仮想空間の温度と湿度の状態が常に試験設備で現実化され、エアコンの運転状態が収束し、目標とする設定温度に到達した時の消費電力を求めれば良い事になります。

日本空調冷凍研究所(JATL) 負荷固定試験プレテスト冷房50%のグラフ

このグラフは、今回、空気エンタルピー測定装置を用いて、日空研で初めて実施した負荷固定試験結果の一例です。この試験結果の妥当性は、まだ十分確認されていませんが、エアコンの目標温度や設定された熱負荷(エアコンの能力)に相当する冷房能力が計測されていることを確認できました。

本試験法では、ユーザーがエアコンを実際に運転する状態の運転特性を評価することができます。今後、国際規格として発行されることを想定し、事前試験を繰り返し、第三者試験機関の側面より実施課題を抽出してスムーズに試験ができるよう継続検討して行きます。

新たな性能試験方法に向けて その1(背景)

2025年5月

エアコンの能力測定は、通常カタログに記載された能力値を出力するよう、製造業者の指定する方法により設定した状態で行っています。これは、国内の殆どのエアコンが、能力可変型(インバーターエアコン)になっているため、出力を固定するには製造業者からの情報提供が必要だからです。

しかし、この方法の場合、任意の運転状態でエアコンの能力測定はできないため、試験設備側に一定の熱負荷を与え、後はエアコンの温度制御に任せ、運転が収束した状態の性能特性を評価する試験方法が、日本を含めた国際規格の検討の場で議論されています。

日本空調冷凍研究所(JATL) 試験設備のメンテナンス事情のイメージ

この図は、従来の測定方法との違いの一例です。最終的に求めるのはエネルギー消費効率で一致していますが、その過程で異なっており、新測定方法では製造業者からの情報を特に必要としません。

日本では、東京大学や早稲田大学の研究室において、いち早くこの方法が検証されていましたが、ようやく、日本が先頭に立って国際規格化が加速しています。私たちは、この試験方法を「負荷固定試験」と呼んでいます。

新たな性能試験方法に向けて その2(取組み)

2025年5月

日空研では、試験設備に一定の熱負荷を与え、その後、安定するまでエアコンの温度制御によって運転し、収束した状態で性能特性を測定する「負荷固定試験」を、2019年~2022年にかけて実施しました。その時は、平衡式室形熱量計(バランス形熱量計)を使用して行いました。

日本空調冷凍研究所(JATL)| 試験設備全体の立面図

上の図は、試験設備全体の立面図です。エアコンが設置された平衡式室形熱量計の室内側に、カタログで記載された能力、つまり、一定の熱負荷を投入してエアコンを運転し、エアコンの室温制御によって収束した状態の消費電力を測定すれば、従来の試験方法と同様にエネルギー消費効率を求めることができます。

この試験方法は、ドイツ連邦材料試験研究所(略称:BAM)でも提唱され、参加試験所によって持ち回りで行う、ラウンドロビンテスト(RRT)に日本冷凍空調工業会の試験機関として2020年に参加したことがあります。下の図は、その時測定した冷房運転データの一例で、定格能力に対する負荷率により、定常、または非定常状態で収束しました。

<負荷率 100%>

日本空調冷凍研究所(JATL)| 負荷率 100%のイメージ

<負荷率 74%>

日本空調冷凍研究所(JATL)| 負荷率 74%のイメージ

しかし、この試験方法には欠点があり、エアコンが定常運転の場合は大きな影響はありませんが、非定常状態で収束した場合、試験設備の室内側容積(試験空間を表す範囲試験空間)によって試験結果が変わってしまいます。したがって、すべての状態において、平衡式室形熱量計でこの試験を行うことはできないという結論に至りました。

そこで、どんな試験設備でも行えるように考案されたのが、早稲田大学基幹理工学部齋藤研究室で開発された、仮想空間に一定の熱負荷を設定してエアコンの運転特性を評価するエミュレーター方式です。この方法では、試験設備の空間容積影響を殆ど受けずに測定できるよう「空気エンタルピー測定装置」を使用し、仮想空間にあらゆる熱負荷を設定できるため、汎用性のある有効な試験方法として注目されています。

試験設備のメンテナンス事情

2025年3月

日空研では毎年2月~5月にかけて試験設備のメンテナンスを行っています。今年も全ての試験設備のメンテナンスが行われています。この期間は翌年度の性能試験に備えて非常に重要な期間でもあります。

メンテナンスと言っても内容は様々で、温度センサーや電力計など計測器の校正から、設備校正用エアコンによる試験設備の能力測定結果検証、設備環境の整備などを行っています。高精度の温度センサーや電力計は校正専門試験所に送り、その精度を保証してもらわないと測定の不確かさの担保が取れないため、校正期間や費用もかかります。

今年の大きなメンテナンスとしては、日本冷凍空調工業会の御支援により、大型空調機用試験設備の安定化電源発生装置周囲の冷却設備入替えを行いました。空調機の性能試験において、試験機を運転する電源には特別な発生装置を用います。その際、発生装置から多量の熱が放出されるので、発生装置の冷却のため周囲の温度上昇を抑える必要があります。

これまで使用していた周囲空気冷却用の床置タイプエアコンの老朽化と近年の異常気象の対策として、電源発生装置周囲の冷却設備を刷新しました。春の訪れからあっという間に夏は猛暑となりますが、この冷却設備があるおかげで今年は安心して試験が行えます。

日本空調冷凍研究所(JATL) 試験設備のメンテナンス事情のイメージ

New Year‘s Resolutions

2025年1月

謹んで新春のお慶びを申し上げます。昨年は格別なご高配を賜り厚く御礼申し上げます。

昨年5月より日空研コラムをスタートし、毎月掲載を続けていますが、日空研は一体どんなところなのか? どんな仕事をしているのか? まだまだ、お伝えできておりません。日空研コラムの2年目も、私たちの活動や日常業務で感じていることなどを発信して行きたいと思います。

今年の大きな取組みとして、昨年立上げた対外業務管理システム 「J-CLIENT+」は、日本冷凍空調工業会の委託業務を中心とした業務のDX化に大きく貢献することができましたので、ユーザーの皆様に一層便利なツールとして活用していただけるよう機能の追加や改善を積み重ねて行きたいと思います。

また、早稲田大学基幹理工学部齋藤研究室の御協力を得て、昨年所内に負荷固定試験の実行プロジェクト 「次世代性能測定プロジェクト」を発足しました。今年は本試験法を当所の試験設備で早急に実行し、試験技術力の強化とともに、試験所の側面から課題抽出と対応案等を検討してまいります。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

ルームエアコン、業務用パッケージエアコン、仮定法ヒートポンプ給湯器、ガスヒートポンプ冷暖房機の製品別に日冷工性能検定制度加入会社